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コロナ禍でも進む障害者雇用。 いま求められる合理的配慮とは?

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厚生労働省の調査によれば、2020年6月1日時点の民間企業における雇用障害者数は57万8,292人で、前年比の3.2%増、実雇用率も2.15%で前年比の0.04ポイント増となりました。このように、雇用者数は過去最高を更新しましたが、一方でその伸び率は鈍化傾向に。法定雇用率の達成率は48.6%と半数にも満たない状況です。

ますます求められる障害者雇用

そんな中、今年(2021年)3月に民間企業の法定雇用率が2.2%から2.3%へ引き上げられました。例えば、従業員が44人の企業はこれまで雇用義務がありませんでしたが、今後は障害者を一人以上雇う必要があります。また、すでに雇用している企業でもその人数を増やす必要性もでてきています。

障害者は「身体障害者」「知的障害者」「精神障害者(発達障害を含む)」に分けられますが、いずれの障害についても、雇用側は「障害者を雇用するイメージやノウハウがない」といった課題点を挙げています。まずはイメージを持つためにも、「障害者差別解消法」によって求められるようになった「合理的配慮」について、採用・雇用の実例をみてみましょう。

身体障害者の雇用と合理的配慮

障害者の中でもっとも雇用人数が多いのは身体障害者で、視覚障害、聴覚言語障害、肢体不自由、内部障害、重複障害などの障害を持つ人です。

【合理的配慮の事例】

<採用時>

・音声ソフトや点字を採用試験に活用した(視覚障害)
・面接には手話通訳員を委嘱した(聴覚障害)
・ラッシュ時を避けた面接時間にした(肢体不自由)
・面接会場の机の位置などに配慮、会場を1階にしてすべての試験を1会場に集約した(肢体不自由)

など。

 

<雇用後>

・危険箇所にはぶつかっても怪我をしないような工夫をした(視覚障害)
・災害時に備え、避難時の手話ができるよう全社で研修を行った(聴覚障害)
・就業中も休憩中も車椅子だと床ずれができるので、横になれる簡易ベッドを設置した(肢体不自由)
・透析スケジュールを把握し、処置後は大きな負担がかからないよう業務量を調整した(内部障害)

身体的な障害なので、物理的な配慮を行っているところが多いようです。雇用上の課題も「職場の安全面の配慮が適切にできるか」という点を挙げている事業者が他の障害者を雇う場合より多くなっています。

【具体例】

<カーペットの色で通路を示した不動産関係会社>*1

雇用している障害者の視野が狭く、物や同僚の椅子などにつまずくことが多かった。テープで境界をつくるなどの工夫をしていたが、分かりにくく、事業所の引越しに伴い、カーペットの色を一部変更して通路とそれ以外のエリアのコントラストをはっきりさせた。色を決めるときは、障害者本人に確認してもらい決めた。以降、同僚も物の置ける範囲や、椅子の飛び出しなどに容易に気づけるようになった。

知的障害者の雇用と合理的配慮

知的障害者の方には、「話している言葉は理解できるが、文章での理解は苦手」、またはその逆で、「相手の言っていることは理解できるが、自分の気持ちを表現するのが苦手」など、さまざまな方がいます。また、一定の時間に出勤することが困難であったり、体調に波があることや通院・服薬が必要なこともあります。

【合理的配慮の事例】

<採用時>

・面接官との意思疎通に支障が生じないように就労支援機関の職員などの同席を認めた
・本人だけでなく、保護や就労支援機関の担当も一緒に職場見学や勤務内容の説明を行った

など。

<雇用後>

・本人の習熟度などを確認しながら徐々に増やしていった
・図などを活用した業務マニュアルを作成した
・本人対し、会社や社会のマナー及びルール、通勤災害や労務災害予防の勉強会を開催した

知的障害者に対しては、障害者のメンタルに対する配慮が多くみられます。また、知的障害者の苦手なことに配慮された取り組みも多くの企業で行われています。

「採用時に適正、能力を十分把握できるか」が他と比べると、雇用上の課題として多く挙げられています。

【具体例】

<障害者主体で問題点を改善したゴム製品の製造業企業>*2

障害者が60%という職場で、健常者主体の職場改善では障害者にとって使いやすいとはいえず、その経験から障害者主体で、「危ない」「やりにくい」「悩む」などの問題点を見つけ、改善する活動を行なっている。問題マップと改善マップをなど作り、オリジナルのピクトグラムを使って、分かりやすくしている。目指しているのは「障害者が悩まない作業、疲れない作業」。

精神障害者の雇用と合理的配慮

精神障害には統合失調症、そううつ(気分障害)病、てんかんなどがあり、発達障害には自閉症・アスペルガー症候群、注意欠陥多動性障害などがあります。それぞれ特性や症状が異なるため、雇用者はそれらを事前に知っておくといいでしょう。

【合理的配慮の事例】

<採用>

・緊張している様子の時は、面接を中断、落ち着いてから再開した
・人の出入りのない個室で面接し、集団面接を免除した

<雇用後>

・業務の優先順位を明確にし、指示を丁寧にした
・できるだけ静かな場所で休憩できるようにした

知的障害者への配慮と同様、メンタル面や、対人面に気を配っている例が多くみられます。

雇用上の課題では、精神障害で「従業員が障害特性について理解することができるか」、発達障害では「採用時に適正、能力を十分把握できるか」が、他よりも多くなっています。

【具体例1】

<親会社の仕事を切り出してITスキルの高い障害者を雇用したIT関連会社>*3

情報通信業に精神障害者が従事している率は高くない。しかし、実は職場環境に適応できずITスキルの高い障害者が定着していない場合もあったため、執務室を作る、パーテーションを設けるといった環境を整えることで、次代を担う人材として、精神障害者を育成している。

【具体例2】

<福祉的な受け入れではなく”戦力”としての採用を行なった建設会社>*4

採用前の実習などを通して、障害者の意欲と、会社側の求めるものとのギャップを軽減していった。障害者用として特別な仕事を用意せず、アセスメントを重視、その上で業務分担を行なった。核となる日常業務にその他の業務を組み合わせる、個々で仕事に専念させるといった定着のための工夫もさまざま行なった。

合理的配慮はどこまで?

どの障害者に対しても、例として紹介した配慮をはじめ、体調への配慮はもとより、対応専任者や臨床心理士をおく、ジョブコーチを活用するなど、さまざまな合理的配慮が提供されいます。

しかし、それにも限界はあります。

例えば、テナントとして入っているビルがまったくバリアフリー対応をしていないとして、車椅子の人が不自由なく働ける設備を自前で整えるには、莫大な費用がかかってしまい、とても現実的ではありませんよね。

合理的配慮は「民間事業者は提供に努める」とされてはいるものの、過重な負担の場合は断ることもでき、罰則もありません。基本的には、障害者から「こうしてほしい」「こんなことが難しい」と申し出があったことについて協議し、お互いに合意した上で行っていきます。障害者のプライバシーへの配慮も重視しなければならないので、同僚に対して障害についてどの程度知らせていくかなども含めて、しっかりと話し合うことが必要ではないでしょうか。

リモートワークで障害者雇用は進むか

コロナ禍で急速に広がったリモートワーク。コロナ収束後も、主な働き方の一つとして定着するといわれています。

特に在宅ワークであれば、普段生活している場所で働くことになるので、身体的にもメンタル的にも過ごしやすく、通勤自体がが苦痛だった人にとっては、願ったりかなったりかもしれません。

雇う側にとっても、リモートワークは環境を整えるのための費用を減らすことできますし、遠隔地に住む方々の雇用も可能になるため、より広く採用活動ができることもメリットになるでしょう。

しかし、例えば知的障害者の約4割は生産工程の職業に就いていて、その多くは工場などの現場での作業なので、リモートへの変換は難しいかもしれません。

また、対面であれば気づけた体調面やメンタル面のちょっとした変化に気づけず、ストレスを溜めさせてしまうことにもなります。

会社内で行う仕事と同じように、業務の切り出しを行って、リモートで採用するメリット・デメリットを考慮しながら進めていけば、新たな障害者雇用のスタイルになりうるでしょう

合理的配慮は“雇用”だけの問題ではない

障害者差別解消法は、「共生世界」を目指したもので、障害者に対する合理的配慮の提供は、なにも雇用する企業・事業所だけに求められていることではありません。

生活のあらゆる場面で、障害がある、ないに関わらず、人間同士がふれあい、互いに”らしさ”を認め合い、共に生きていく。この考えを普段から皆がもっていれば、「障害者雇用!どうすれば?」と尻込みする必要はないのかもしれませんね。