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中堅・ベテラン層のアイデンティティ・クライシスを乗り切らせるには?/後編

働き方改革や旧型経営の破綻、パラレルキャリアの促進などにより、仕事をする上で組織に対する“個”の存在感が増してきています。当社CEO桜庭理奈へのインタビュー、前編は、桜庭の生い立ちやキャリアの中で経験したアイデンティティを中心に綴ってきました。後編では、アイデンティティ・クライシスを抱える社員の個性を認めるために必要なことや、自律的な個と組織をつなげていくために管理職や意識しておきたいことについて語っています。

 

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35CoCreation合同会社 桜庭理奈

多様性の時代、社員にも経営者自身にも自律が必要

35CoCreation合同会社CEO 桜庭理奈(以下、桜庭):これまでのキャリアとアイデンティティ・クライシスの経験から私が確信したことは、組織に帰属していた人ほど、会社の判断が自分の考えと違った時に、ショックを受け、ネガティブな方向へ働いてしまうということです。頭と心がちぐはぐな状況に陥りやすく、判断が明確な打開策になりにくくなってしまう。誰が悪いわけでもなく、個と組織の正義だけでなく、個と個の正義もぶつかってしまいます。

編集部(以下、編):前編の冒頭で触れた30〜40代の反対行動も、その現れなのでしょうか?

桜庭:メンバーに、自律(自分で決断し、自分で行動する)してもらわなければ、そのような対立が出てきてしまいますよね。経営者も、目の前の課題だと思い込んでいることを解決するだけでは根本的な解決にはならなくて、もっと上流の「なぜそれをやりたいのか?」を自身に問いかけ、それを言語化し、多様な考えを持つ“個”へいかに伝えるのか?伝え方の戦略・戦術が必要だと気づくべきです。

:迷っているメンバーに対し、「自律していいんだ」ということを伝えていくということでしょうか?

桜庭:経営者には2タイプあります。一つは自律を促すタイプ、もう一つは依存を推奨するタイプです。しかし、後者は人生を人に委ねることですし、今の時代では部下は生きにくくなるでしょうね。逆に、自分らしさや生きがいを理解して、個とコミュニケーションをとり、組織と個を繋げていこうとする経営者は前者のタイプです。ただ、コミュニケーションを間違えると前述のアイデンティティ・クライシスから派生した対立を生みます。

まずは、組織という有機体は多様性で成り立っているという前提に立つことが重要で、自分もその中の“個”のひとつなんだと自覚した上で、経営者も自分らしさを出していけばいいと思います。これは、一種のスキルですね。私自身もキャリアの中で挫折やら、失望やら、失敗やらを経験しましたが、そういった「自分は何者なのか」と深く追及するような経験が、このスキルを身につける大きなきっかけになっていると思います。業績をあげている多くの経営者が自分追及に試行錯誤して苦しまれた経験をお持ちなのも頷けます。

ただ、残念ながら、実際には個と組織をつなげる素晴らしいアイデアを持ちつつ、「でも〜」と何かしら理由をつけて、実行に移せていない経営者がほとんどです。「30〜40代の中間管理職に反対されて頓挫する」というのも、実はこの「でも〜」の一つなんだと思います。 そして「でも〜」といいつつ、多くのことを諦めているんですね。アイデアはあるんですから、諦めるのはもったいないです。まずは、その「でも~」が何なのかを他人と共有することから始めましょう。失敗を恐れず実行すればいいんです!

それでもなお「でも〜」という経営者は多いでしょう。そんな時は個と組織を繋ぐため、経営者や役員と伴走する、私のような人事のスペシャリストを置くことも有用かと思います。しかし日本ではその人数が圧倒的に足りていないのが実情なんですが。

:それが桜庭さんが独立された理由でもあるのでしょうか?

桜庭:経営者には相談者が必要ですし、少ない存在を大手に独占されたら、残り9割の中小企業はどうしたらいいのか?と思い至ったところで、私の人生のミッションが変わったのはあります。私自身をシェアしていただくことで自分も幸せだし、社会的インパクトもあるなと。それが独立前にパラレルキャリアとして、コンサルを始めたきっかけでした。

自分なりの真・善・美をみつめる

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オンラインにてインタビューを行いました

:パラレルキャリアやプロジェクトベースの仕事が多くなって、ますます個の能力が問われている感じがします。

桜庭:自分で関わる仕事やチームを選べるようになってきてますよね。誰にも強制されないし、チームという安心感はあるしで、幸せなことだと思うんですが、同時に、自分にできることと、相手が求めることの齟齬が生じることもあって、そこを生じさせないための対話が必要です。そしてその対話に不可欠なのが、自律した個としての責任、何に対してイエス・ノーをいうのかという“軸”です。自分なりの「真・善・美」といえるもので、これがあれば、人生に対し主体性を持て、幸福感が高まり、結果的に創造性も生産性も高まるのではないでしょうか。

ただ、個にベクトルが向くので、不安にはなるでしょうから、「私の武器(軸)はこれです!」と言えるようになるまで、組織としても、経営者としても伴走は必要です。特に、マニュアルを作って「誰でもできる仕事」へと効率化とスタンダード化を正としてしっかりこなしてきた30代後半〜40代の人々にとって、「自分だからできる仕事」へのパラダイムシフトは、OSを載せ替えるくらい大きな変化なので、しっかりとしたフォローが大切なのです。

:確かに、急に「自分で考えてやって!」と言われても不安しかないですよね…。

桜庭:そうですね、判断軸すなわち、自分なりの真・善・美はアップデートされてしかるべきですし、それを形成せずに自律して!と突き放されるのは酷かもしれません。そこは「これまでとは違う幸せもある」ことを体感できる丁寧なコミュニケーションや実験の場が必要でしょうね。

今まさしく、リスクを取らずに自律する視座を体感してもらうため弊社でも取り組んでいるのが「越境コーチング」です。部門や会社を飛び越え、利害関係のない人たちが同等な立場でコーチングし合います。多様な価値観に触れ、自分とは違う視座を得るのですが、そこでみな気づくのが「答えのないのが答え」だということなんです。

コーチング開始3〜4ヶ月は、「正解はなんですか?私たち合っていますか?うまくできていますか?」と聞く方が大勢います。それに対し何が正解かの答えを与えるのではなく、「なんで合っているかどうかが気になるのか?その違和感はどこから来ているか?」とさらに自分の深層を見てもらうようにすると、”答えのないのが答え”に皆行き着きます。「あんなに誰のための正解かわからない正解を求めていたのが恥ずかしい」というくらい。

コロナ禍なんて普通ではありませんから、“絶対的答え”なんてあるわけもないんです。しかし、それを求めるプロセスを経ることで”自分だけの答え”、自分らしさや生きがいといえるものに辿り着くのかもしれません。

経営者のみなさんは、全てをお膳立てする必要はありませんが、少なくとも“自分だけの答え”を見つけてアイデンティティ・クライシスを抜け切る道筋はチームメンバーへは示したいものです。そのためには、経営者自身も自律し、自らの幸せに向き合って、進んでいきたい道を皆と共有できるくらいに明確にする必要があるのかもしれませんね。経営者にもコーチングは必要で、特に自身をコーチングするセルフコーチングのスキルは、今後の経営者にマストなスキルになっていくと思います。

 

編集後記(編集部)

真・善・美。久しく忘れていた言葉ですが、“真”、“善”、“美”のそれぞれの意味と、各々の繋がりを考えた時、起こっていることと、その先への道が見える気がしました。これまで正しさを貫いてきた人々が、他者に対することを含めた意思や行為の基となる価値観、それを超えた感性を見つめ、従っていく時代がきたのだと実感。コロナ禍のおこもり時間も、自分深層探訪に使えるといいですね。